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アコースティックギターのトータル音色のコントロール

 

 アコースティックギターの音色を決定する要素は多岐にわたり、

一般的に、木材がどれだから、こういう音になるという単純なものではないことがわかってきた、

 

 今回、オールマホボディーのギターを塗装剥離することによって、

音質改善を行うことになったわけだが、その音質はこのような特徴があった。

 

  1. 音色  ローミッドに偏っており、ハイが出ていない。

  2. 音圧  低音の音圧が強く、ハイとのバランスが悪い。

  3. 音抜け ローミッドですら音の濁りがあり音分離が悪く、抜けない。

 

このような特徴であった。

 

その結果、このような演奏には支障がない。

  1. 低音を利かせた歌もののバッキングなどでは、厚みがあり、抱擁力がある。

  2. ロック、ブルースなどの弾きがたりに向いていた。

反面、不得意な演奏はこのようなものである。

  1. ソロスタイルのフィンガーピッキングでは、メロディーラインが埋もれる。

  2. バンドサウンドにはいると、ベースとぶつかる。

  3. 同様に、1-3弦を使ったバッキングをしても、エレキ楽器で埋もれる。

今回の改造の目的

  1. ローとミッドの音分離、音抜けをよくする。

  2. 高域の音量と音抜けを上げる。

改造のプラン

  1. トップ塗装をウレタンから硬化オイルに変え、被膜を薄くし、中高域を強化。

  2. バック塗装も同様の施工を行い、加えて、低音の音の芯を強くするため、バックの低音域に影響がある箇所を薄く加工する。

  3. 死んでいるナットとサドルを作成しなおし、オクターブ調整と弦高調整、並びに、プラスチックから牛骨へ素材変更し、高域のプッシュ感と中低域の音分離をよくする。

 

それぞれの工程で音がどう変化したか簡単に紹介したいと思う。

  1. トップ・バックの塗装を剥がし、硬化オイルに変更

    1. 高域、主に1-3が音量が上がり、低音の音量より勝った。

    2. 低域は暴れる感じが無くなりおとなしくなりすぎ、全くならなくなった。

    3. 音分離は全弦すべて改善された。

    4. トップ鳴りが強くなり、ボディーのちょうど中央ぐらいから前に、面で出てくる感じが強くなった。

  2. バック塗装を再度剥がし、指の関節部分でコンコン叩きながら、低音域が強く出ている箇所を中心に、木材を削る。

    1. 低域が極度に改善され、高域の音量を超えた。

    2. 強度面を考慮し、ブレーシングの近辺を中心に薄くした

    3. 薄くする過程で上下左右との音量、音程を整えた。

    4. バック鳴りが強くなり、ボディーの底から音が抜けるようになった。

    5. 同様にバックがお腹に響く事で、モニターしやすいギターに変わった。

  3. ナットをプラスティックから、牛骨に変え、高域の抜けをバランスとってみる。

    1. 狙い通り、高域の抜けがよくなり、全弦の音量バランスと、芯がしっかりしてきた。

    2. 3弦の1フレットが当たり、ビビりが出ていたが、改善された。

  4. ナット溝と弦の接触面の調整を行い、各弦の音量・音圧を微調整する。

    1. 色々WEBを見ていると、接触面が多いといいという意見もあれば、少ない方がいいという意見もある。個人的には、接触面が多いと、響きは強くなるが、音が濁る。少ないと、響きは弱くなるが、音が鋭くなり、遠くまで音が届く感じを受けます。

    2. 今回は、6弦100%、5弦80%、4弦60%、3弦90%、2弦60%、1弦50%ぐらいの接触で調整し、各弦のバランスを調整。

    3. 形成は元のナットを元に、均等に四角に成型し、次に、アールに合わせて、両端を削る。その後、ベッド側を斜めに削る。

    4. 各溝は、43㎜のナット幅に対して、両端3.5㎜を開け、36㎜を5で割った7.2㎜で等間隔に溝切。その後、ナットファイルで、弦の太さの1個上の太さである程度の溝に削り、その後、貼る弦の太さで溝を仕上げ。

    5. 仕上げた溝の深さは、弦の半分が出るセッティングを基準にして、削るが、削る段階で、弦高と弦の飛び出しを調整して、最終仕上げ。

  5. 総合の音質が出来上がったら塗装面を最終仕上げに。今回はマット仕上げ希望なので、1000番台ぐらいのサンドペーパーで水砥ぎ。塗装面は約30回ぐらい塗り重ね、10回分を表面整えで削れるイメージ。

  6. ヘッドの塗装剥離を行い、所有者の希望で、パールインレイで希望のロゴに変更。インレイの表面をサンディングでなじませ、硬化オイルで仕上げ。

  7. サイドとネックに打痕が複数個所ある為、打痕のタッチアップを行い、ラッカーで仕上げる。サイド材の塗装剥離は、正直あまり音質に効果はないと経験上体感しているため、強度を重視して、ラッカーのまま仕上げ。

  8. ヘッドも本来は薄さによって音の輪郭に影響がある気がする。ただ、エレキ、アコギはヘッドの厚み調整は無理があり、あくまでクラシックギターでのみできる方法です。

 

まとめ

 

ギターを0から作る際、素材の選択、加工技術、塗装など色々な技術がありますが、一旦その予算でメーカーが組み上げた完成品においては、演奏者が足りないと感じている部分と、その完成品のどの部分を改良すれば、強度、見た目などを保持しながら、音色変化をどれぐらいの予算で行うかが、テーマになる。

 トップ材は強度について、測定方法が板の厚みと、ブレーシングの入りぐらいでしか判断できず、あくまで塗装をいじる、弦が接触する箇所の材質を変えるなどが無難なリペアだと思う。トップの剥離も、材が薄いものは、トップコートも含めて強度を持たせてある可能性があるので、トップが厚いものは、改善しやすいと判断できるのかもしれない。

 バック材は弦の張力はあまりかかっていないため、比較的、音質改善には容易なリペア箇所ではないだろうか?イメージとしては、ボディーのネック側は中高域、中央は、高域、下側の真ん中あたりは、低音への影響が強いように感じる。ブレーシングの上部を削ることで、強度維持しながら、音質変化効果が得られるのではないかと思う。ただ、ブレーシングの入れ方によって、音質がどう変わるかなどは、一度ギターを0から作ってみないとわからないと思う。これだけは言えるのは、2枚のトップ材をブックマッチで張り合わせ均一に削ったとしても、得られる音は博打に近い。なぜ、個人ビルダーの製作したギターがいい音なのかはここにある気がする。選択した材の個性に合わせて、イメージするそのモデルの音を目指して、微調整をかけ仕上げていくからこそ、ライン生産には得られない音が出せるのだと改めて時間した。

 すべてはバランスであり、各パーツの調整でどこまで音響変化を得られそうかを元の素材と交換素材の特性を加味し、最低限度、最低コストで最良の音を作り出すことが大事である。

 最良の音とは、個人に依存し、個人が過去に聞いた音、比較した音、ライブで聞いた音などに依存するため、その音は、生ですべてが完結するわけではないところが非常に悩ましい。毎回違う機材、違う箱サイズ、違う壁のつくりなどによって作られるため、さらなる複雑さを増すわけである。

 さらにいうなら、ピック弾きの場合、素材、当てる角度、速度などによっても確実に音は変わる。普通のギターリストは、弦、ピック、弾き方、ギター本体、増幅機材、エフェクターなどにこだわるのが最良の改善策だと思います。

© 2015 by Kishihara Masahiro.

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